マイケアカフェ2021 秋
日時:2021年11月5日(金)19:00~21:00 場所:zoomを使ったオンライン テーマ:「ケアマネジメントの20年~利用者はケアマネジャーとどう向き合うか」 スピーカー:國光登志子さん(東京都介護支援専門員研究協議会理事・日本地域福祉研究所主任研究員)
11月5日にマイケアカフェ2021秋が開催されました。長文ですが、読んでいただければ幸いです。 介護保険が始まって20年。制度に伴って創設されたケアマネジャーの仕事も20年が経過したわけです。 すっかり存在が定着したケアマネジャーですが、ケアマネジャーは何をやる人か、ケアマネジャーが行うケアマネジメントとはどういうものなのか、はっきりとわかっている人は少ないのではないでしょうか? そこで今回は、ケアマネジメントとケアマネジャーについて掘り下げてみようと思いました。 介護保険が始まる前から生活保護、保育、知的障害、身体障害、高齢者保健福祉、消費生活等の相談支援に約30年従事してきた経験をもち、介護保険開始後はケアマネジャーの教育にかかわってきた國光登志子さんをゲストスピーカーとしてお招きし、そもそものケアマネジメント、介護保険のケアマネジメント、ケアマネジャーについて教えてもらうことにしました。 それを知ったうえで、利用者としてどのように関わればよりよいケアプランにつながっていくのかを考えていきたいと思います。 参加者は29名。介護保険の利用者、利用者家族、医療福祉の専門職、ケアマネジャーなどさまざまな立場の人が意見を交わしました。 ○「ケアマネジメント」の歴史について。 このマイケアカフェのテーマは「ケアマネジメントの20年」としていますが、実は國光さんによると、日本におけるケアマネジメントの歴史はそれより10年も前に遡ります。 ケアマネジメントという考え方は、障害があっても地域社会で普通に暮らすことができるようにしようというノーマライゼーションの実践として1970年代にアメリカで生まれました。 それまでは障害者や低所得など地域での生活が困難な人に対しての福祉策は、大規模施設でのサービスが主流でしたが、地域で普通に暮らすための支援のための手法としてアメリカで生まれたこのケアマネジメントの考え方が、北欧、イギリス、カナダに広がってきたものだとのことです。この欧米の考え方の情報がやがて日本にも入ってきたのです。 ○日本における福祉制度の変遷 日本の福祉制度は戦後間もなく生まれました。 最初が1949年、戦後4年後に身体障害者福祉法の制定。これは戦争で障害を負って復員してきた人の支援が視野に入れられていました。続いて1950年の生活保護法、児童福祉法、1960年に精神薄弱者者福祉法、1963年に老人福祉法、1982年に老人保健法と続きます。 このあたりから保健の概念が少し変わってきます。それまでは隔離するなど伝染病予防が中心でしたが、隔離や施設から、地域で暮らすことを支援するという方向になってきたのです。 1982年から先駆的な自治体においては保健師が公務員として配置され始めました。 1985年、長寿社会対策、高齢者対策を始めるきっかけが、ノーマライゼーションの動きを日本でも広めようという動きでした。 その実態を見ようということで、先駆的地域における総合相談、訪問看護、保健指導等を調べた「19地域におけるケアマネジメント現状と課題」という報告書があります。 その中には、1970年代後半くらいから行われていた、地域特性に応じた様々なケアマネジメント事例が報告されていました。 事例の共通点は、「寝たきりになっても介護が必要になっても、施設や病院でなく、住み慣れた家で医療や保険、福祉サービスを利用してその人らしく暮らし続ける」という考え方。この考え方は後の介護保険制度にも継承されています。 国も動き出しました。 1989年のゴールドプランでは、ケアマネジメントが政策化され、その拠点として全国に目標1万カ所の在宅介護支援センターを設置するということになりました。 在宅介護支援センターは、総合相談、申請手続き代行、24時間開設する機関として1990年から老人福祉法において事業化され、1994年の制度改正では、老人福祉法の規定に従って、実施要項が設けられ、総合的なケースマネジメント機関として個別処遇計画を策定するよう位置づけられました。 ○介護保険の創設 こうした中で、1996年介護保険法案が国会に提出されました。 1997年5月に修正されて可決、12月に公布となり、以降介護保険をどううまく運用していくかが優先課題となっていきます。 公的介護保険について国民の理解を得ることをめぐり、次のようなさまざまな議論が繰り広げられました。国民的理解への合意形成に精一杯というのが実際のところだったようです。
- 5つ目の社会保険であることへの理解
- 被保険者は保険料を死ぬまで払い続けることへの理解
- 民間保険ではないので、満期、返戻金はなく、介護保険サービスを利用することなく命が終われば、保険料は掛け捨て? 「喜んで掛け捨てにしよう」と思ってもらえるか?
- 老人福祉法の措置による在宅サービスを利用していた人は途切れることなく、切り替えは上手くいくのだろうか?
ケアマネジャーに対する研修も混乱していたといいます。 措置制度から介護保険制度への切り替えは何とかスムーズにいきましたが、問題点が見えるようになり、介護保険法はこれまでに改正を繰り返しています。 ケアマネジメントの資質についても言われ始め、ケアマネジャーの研修についてもカリキュラムの見直しが再三行われてきましたが、今、「居宅介護支援」「介護支援専門員」のケアマネジメントの業務に対する期待と評価は次のように整理できます。
- 介護保険制度の周知・定着
- 軽度者の重度化傾向に対する歯止め役
- 違法行為者に対する法令順守のチエック機能
- 地域づくり、まちづくりの仕掛け、支え手
- 制度の持続可能性への期待
○在宅介護支援センターと居宅介護支援の比較 ここで、介護保険前の老人福祉法に基づいた在宅介護支援センターと介護保険の居宅介護支援のケアマネジメントを比較してみましょう。
- 老人福祉法「在宅介護支援センター」
- サービス・支援の必要性を見極めるアウトリーチからスタート
- 本人のみならず、家族の問題にも対応
- サービス利用に伴う限度額はなく、自己負担金の負担能力を勘案
- 老人福祉法のサービス以外にも、必要な社会資源につなぐ
- 介護保険法「居宅介護支援」
- 要介護認定を受けてから、相談にのる。
- 契約なので、相談、申し込みに来ない人は対象外
- 個人別ケアプラン
- 介護保険サービスの利用を最優先するケアプラン
- 施設入所もケアマネジメントの対象とした。→「在宅の限界点・・?」
- 給付管理に縛られるケアマネジメント
具体的に説明すると
- 老人福祉法における在宅介護支援センターが、本人だけでなく影響力がある家族の問題も対応し、介護状態でなくても生活困窮や調理ができないなどの問題に対して一緒に考えていたのに対し、介護保険では、在宅で夫婦ともに認定を受けても一人ひとり別のプランとなり、家庭や家族や生活というかたちをバラバラに切り離したアセスメントを行わざるを得ない。
- 在宅介護支援センターでは、金銭的にはサービスに限度額はなく自己負担金の負担能力を勘案しながらケアマネジメントを行っており、老人福祉法のサービス以外にも社協のサービスや地域資源も組み合わせてやっていたのに対し、介護保険では介護保険では、限度額、給付管理という縛りがある。そして、介護保険のサービスを利用するということが前提で、介護保険サービスにつなげていなければ報酬が入らない。
- 在宅介護支援センターは、地域で普通に暮らす暮らし方を支援するケアマネジメントという考え方であったのに対し、介護保険では、施設での暮らしもケアマネジメントという枠組みの中に入れ、施設の人もケアプランを作成する。そうしたことから、在宅で厳しくなると在宅の限界点としてケアマネジメント上で施設入所を考えるようになったが、これは従来のケアマネジメントではなかった視点。
在宅介護支援センターでのケアマネジメントと介護保険のケアマネジメントの両方を熟知している國光さんのお話を伺い、介護保険の枠の中のケアマネジメントは本来のケアマネジメントから変質してきたように感じました。 さて、そうした中で私たち利用者はどう向き合っていけばいいのでしょうか? 國光さんは、
- 利用者もケアマネジメントの楽しさ、やりがいを実感してほしい。
- ケアマネジャーの負担軽減に利用者として協力できることは?…アセスメントに不可欠な生活状況の把握は「玉手箱」を活用したらいい。
- 制度改正に対する情報提供が利用者に届くように利用者も声を挙げたい。
- 医療連携の促進に利用者・家族ができることがあるのでは?…患者だから、家族だから聞けること、聞きたいことがあるはず。
といったことを掲げ、「こうした姿勢が、被保険者として、国民として、地域の一員としての役割です! 」 と話を結びました。 続いて、ニッセイ基礎研究所の三原岳さんが、「20年で振り返るケアマネジメント、ケアマネジャーの論点」と題して、補足説明を行いました。 ○ケアマネジャーと高齢者の関係 ケアマネジャーに対する介護保険制度の報酬は、介護保険サービスを組み込んで給付管理を行うことで居宅介護支援費が支払われる構造となっています。 本来、ケアマネジャーは「利用者の代理人」として位置づけられていますが、ケアプランに介護保険サービスを組み込まないと報酬を受け取れないこの構造が利用者の代理人になりにくい要因となっています。
○ケアマネジャーと介護事業者の関係 ケアマネジャーの事業所の大半は独立しておらずサービス事業所の併設となっています。これは制度創設時に、サービスが拡大せずに「保険あってサービスなし」が懸念されたためで、ケアマネジャーの定着とサービスの拡大には役立ちましたが、そのため親会社の意向が反映されやすい構造となっています。 これを解消するためには居宅介護支援費の引き上げが必要ですが、実際問題として財政難でそれは困難です。 国は、対策としてケアプランにサービス事業所が集中した場合は減算させる措置などを導入しています。 ○ケアマネジャーと市町村の関係
- ケアマネジャーは給付管理の役割を担っており、市町村の代理人としての側面も持っています。さらに市町村に許可・指導権限が委譲されており、市町村の意向を気にせざるを得ない構造になっています。
制度を作る際に要介護認定とケアマネジメントが切り離されてケアマネジメントを制度に組み込まれました。そうしたことからケアマネジメントが「手続き」となり、ケアプランは「介護保険サービスを受けるための計画」としての側面が強くなりました。
- 2015年に地域ケア会議が制度化されました。これはケアマネジメントの一環として実施されるサービス担当者会議が機能していないことへの対策としたものですが、行政からケアマネジャーによるケアプランの変更を促すような場になっているところもあります。
このように、ケアマネジャーは、高齢者、事業者、市町村の間にあってとても難しい立ち位置にいるのです。 介護保険の枠の中でのケアマネジメントは制度の枠に加えて微妙な立ち位置によって、本来のケアマネジメントとはとは異質なものになっていると感じました。 三原さんによると、国は、2021年度の改正の中で、ケアプランの中に位置づけるインフォーマルサービスへの配慮や退院時の支援に加算をつけるなど、介護保険枠を超えたケアマネジメントを評価する方向を示しました。 また、生活援助を多く組み込んだケアプランに関する提出制度を設け、適切にアセスメントを行って利用者の意向や状態に合ったケアプランにつなげるように促してはいます。 ケアマネジャーの努力は常々見ています。また国も考えています。 でも経緯や現状を聴き、利用者としてできることはないのかと思いをめぐらしたとき、やはり、利用者が丸投げせずにきちんと考え、できる限りアセスメントに協力し、ケアマネジメントの過程に参加することが一番の解決策なのではないか、というところに帰結するのですが、いかがでしょうか。(文責:島村) |